おぼしき事云はぬは
 
  一週間程前から、肝臓の裏あたりがジクジク痛い。痛みは継続しているのではなく、一時間か二時間の間隔でもって、十分かそこいらジクジクした痛みが続く。
 痛みがひどいときには立っていられない程である。近くの整形外科に行っても、骨に異常はないという。掛かりつけの内科に行っても、内臓に異常はないという。
人間が出来ていないせいか、肉体と精神が直結している。痛みがあると、短気になリ些細な事でも腹が立つ。
気が小さいので、ここ二、三日食欲もない。
 しかし、食欲がないのは、もうひとつ、鬱憤が溜っているせいでもある。
 「おぼしき事云はぬは腹ふくるゝわざなれば」と、兼好法師も仰っている。
 せめて、食欲でも快復させるために、兼好法師の説に従うことにしようと思う。

 買い物に行って、たとえば六百円の買い物をして、千円札を出したとする。眼鏡を掛けた二十歳くらいの小生意気な女店員が言うのだ。
 「千円からでいいでしょうか?」
 私は、あわてて小銭入の中身を確かめようとした程だ。しかし、よくよく考えてみると、小銭を出して、一体何をどうすればいいのだ。こちらが千円札を出したのだから君はつべこべ言わず、四百円のお釣りを出せばそれでいいではないか。なぜ、素直に、「千円お預かりいたします」と言えない。
 腹ふくるることだ。

 女性は、ウインドウ・ショッピングなるものが大変お好きだ。しかし、男性はどうもその心情が理解出来ない。
買いもしない物を見て、何が楽しいのか。
 彼女らはきっと、ブランド物のハンドバックを身につけた自分を想像したり、ショウウインドウのお洒落な服を身につけた自分を想像する特別な能力があるのだろう。
 しかし、それに付き合わされる男性は苦痛以外の何ものでもない。スカートのフレアが三つ付いているか四つ付いているかで、十分も二十分も考える。
 「どちらが、似合っていると思います?」
 男性には、ほとんど見分けのつかない、三つと四つのフレアを、さも重大事であるかのように暫く考えて、
「うーん。きみには、やはりその華やかな四つのフレアが似合うと思うよ」
 ここで、どちらも似たりよったりだよ、などど本音を吐くと、決まって二、三日かそこいらは口を利いてくれないだろう。
 まあ、好ましく思っている女性との買い物は、一緒にいられる喜びがあるので、これはプラスマイナスゼロであろうか。

 ひとりで服を買いに行ったときの話。
 もともと、服を選ぶセンスなど自分にはないことはよく分かっているので、一目見て、いいな、と思ったものを買うようにしている。
 勿論、値札とも相談しなければならないが、行く店自体が出来合いの服しか置いてないので、さほど高価なものはない。 
 夏物の、カジュアルなジャケットが欲しいと思い、一着試着していると、見たところ三十くらいの、紺の縦縞スーツで決め込んだ店員が、つかつかとやって来て、開口一番、
「お父さん、それ、よくお似合いですよ」
 お父さん?
 目の前の鏡を覗き込むと、そこには髪は薄くなり、頬の肉もたるんだ初老の見知らぬ男が立ている。
 しかし、しかし、だ。オレはお前のオッカサンには逢ったことも見たこともないぞ。見知らぬ若造に、お父さん呼ばわりされる筋合いはない。変な言いがかりは、やめてくれ。  
 テレビのレポータが、どう見ても赤の他人と思える人に、「お父さん、お母さん」と、呼びかけているのを見た。その言葉のなかに、傲慢さが蔵(かく)されていることに、彼らはきづかないのか。

 「ら」抜き言葉や、「全然」のあとに否定語が続かない言葉遣いは、時代の流れだからやむを得ないことだろう。しかし、「実は」という言葉が意味なく多様されているのは鬱陶しい。
 テレビで、あるコメンテーターが、「実は家を出るとき、雨が降っておりまして・・・」などと言っていた。言葉遣いのぞんざいな人に、碌なコメントは出来ないだろう。
 「実は」と言う言葉を聞くと、チャンネルを変えるか、電源を切ることにしている。

 マスコミも信頼が置けない。以前は、夜七時のニュースは欠かさず見ていたものだが、今はほとんど見ることもない。

 隣りの国、韓国の窃盗団が、対馬のお寺から二体の仏像を盗み出すという事件があった。平成二十四年のことだ。その仏像の一体はまだ日本に帰ってきていない。それどころか、韓国の裁判所は、日本に返す必要はないという判決を出した。あきれる話だが、日本の報道はどうなっているのか。
 慰安婦の問題も、同じだ。歴史を少しひも解けば、「慰安婦」は、高級売春婦にすぎないと直ぐに分かること。なかには、親に売られたり、女衒に騙された女性もいるだろうが、それはまた別な問題だ。 
 
 マスコミも政治家も誰も真実を語ろうとしない。
 彼らは、腹ふくるるということのない人種なのだろう。


                                 大隅のヒレ男より