海上の美女

 
 桜の花の散る時分だった。このころの季節のおあつらえ向きのように、か細い雨が降っていた。

 私は、菅原道真神社の朱い鳥居を左手に見ながら、県道68号線をポンコツ車で走っていた。規則正しく唸りをあげるワイパーの音を聞きながら、なぜ、この地に菅原道真なのだろう、などと思いめぐらしていた。

 と言うのも、最近歴史好きの友人から、夢枕獏の本を貰い、その何冊かを読んでいる最中だったからだ。

 なぜ、大隅の地に菅原道真なのか。この地に流されたという話は聞かないから、あるいは子孫がこの地に移りすんだのか。

 これは、帰ってから調べてみよう。ちょうど、朱い鳥居を過ぎたときだった。入江の奥の、少し靄がかかった海上に人影らしいものが見えた。

 まさか、本当に人影?

車のスピードを少しづづ緩める。

しかし、どうもよく判らない。

 私は、車を道端に停めた。ウインドウを降し、目を凝らす。やはり、人影だ。ウエットスーツを着ている。しかも、髪が長い。若い女性のようだ。(この、若いというのは、勿論私の想像と希望が混ざりあっている。そうして、もう一つ、美女という想像も混ざっている。)どうやら、最近流行りのパドルボードのようだ。

 それにしても、まだ肌寒いこの季節にマリンスポーツとは。よほど海が好きなのだろう。同じ海の好きもの同志として、話をしてみたいものだ。彼女が上がってくるまで、待つことにしよう。しかし、待てど暮らせど、その人影は飄々と海上を漂うだけだった。

 三十分ほど待って、私は車のスイッチを入れた。次の仕事で離れざるを得なかったのだ。今でも、その美女(?)と話が出来なかったことが惜しい気がする。

 ところで、菅原道真公だが、帰って調べても何もわからなかった。薩摩川内市東郷町で薨去されたらしいが、大隅との関係は何もわからない。

 知見のある方に一報を願いたいものである。

 2017.5.6 大隅のヒレ男より